実家の売却がつらいと感じるあなたへ|思い出を残しながら、前へ進むための5つの方法

実家じまい・空き家

実家を売ると決めた。手続きも動きはじめた。それなのに、胸のあたりがずっと重い。

そんな状態でこのページにたどり着いた方が多いのではないでしょうか。

先にお伝えします。そのつらさは、無理に消さなくて大丈夫です。 消そうとするから苦しくなります。やることは、消すことではなく、正体を知って整理することです。

私は宅地建物取引士の資格を持ち、不動産業界で9年働いてきました。その間、実家の売却で気持ちが止まってしまった方と、何度もお会いしています。

そこで感じるのは、実家を売ることは「思い出を捨てること」ではないということです。家は手放しても、思い出を残す方法があります。

この記事を読み終えるころには、いま自分が何につらさを感じているのかがはっきりしているはずです。そして、次に何をすればいいかも見えてきます。

この記事でわかること

  • 実家の売却がつらいときの、その気持ちの正体と整理のしかた
  • 家を手放しても思い出を残せる、売却前にできる5つの方法
  • 急いで決めなくていい理由と、期限だけは知っておきたい制度のこと

先に、この記事の結論をお伝えします

出し惜しみせずに書きます。この記事でお伝えしたいことは、次の4つです。

  1. 実家の売却がつらいのは自然なことで、あなたが薄情だからではありません
  2. そのつらさは「寂しさ」「罪悪感」「後悔の先取り」の3つに分けると扱いやすくなります
  3. 家は手放しても、形を変えて残せます。売る前にできることが5つあります
  4. ほとんどの場合、急いで決めなくて大丈夫です。ただし期限のあるものだけは知っておいてください

急かされている感じがするなら、それは相手の都合です。 あなたの都合で決めて構いません。

以下、ひとつずつ説明していきます。

いま、あなたはどの段階にいますか

同じ「つらい」でも、置かれている状況によって、次にやることは変わります。

いまの状態 つらさの中心 この記事で読むところ
A:売ると決めきれていない 決めること自体への迷い 「急いで決めなくていい」の章
B:売ると決めたが気持ちが追いつかない 手放すことへの寂しさ・罪悪感 「3つに分ける」と「形を変えて残す」の章
C:兄弟と話がまとまらない 人間関係の消耗 「二択で考えなくて大丈夫」の章

この記事の中心はBの方です。ただ、AとCの方にも役に立つ部分があるので、気になるところから読んでいただいて構いません。

Cの方へ。 兄弟姉妹で意見が割れている場合、つらさの正体は家ではなく人間関係にあります。まずは選択肢を整理するところから始めてみてください。

実家の売却がつらいのは、あなたが薄情だからではありません

つらいと感じるのは、ごく自然なことです。

不動産の取引でやりとりされるのは、価格と日程の話だけです。査定書に並ぶのは、駅からの距離、築年数、土地の面積。数字ばかりです。

でも、あなたが手放そうとしているものは、そこに一行も書かれていません。

柱に残った背比べの傷。台所のにおい。玄関を開けたときの、あの音。値段のつかないものばかりです。

だから、手続きが進むほど気持ちが置いていかれます。当たり前です。

kento
kento

これは現場でも本当によく聞かれます。「こんなに迷う私は、薄情なんでしょうか」と。そんなことはありません。

実際、契約の日取りまで決まっていた方から、前日に「もう少しだけ待ってほしい」とご連絡をいただくことがあります。珍しいことではありません。

売った方の声は、実は両方あります

正直に書きます。実家を売った方から後日聞く言葉は、良いものばかりではありません。

「気持ちの整理がついて、前に進めた」とおっしゃる方がいます。一方で「もう少し待てばよかった」と悔やまれる方もいます。

この2つを分けているのは、売った価格ではありませんでした。心の準備ができていたかどうかです。納得して手放した方は、金額に関係なく落ち着いておられます。逆に、周りに急かされて決めた方は、後から引きずる傾向がありました。

これは統計ではなく、私が現場で見てきた範囲の実感です。そのつもりで受け取ってください。

そのつらさは、3つに分けると扱いやすくなります

実家を手放すつらさを、寂しさ・罪悪感・後悔の先取りの3つに分けた図

名前をつけるだけで、気持ちとの距離が取りやすくなります。

実家の売却がつらいとき、その中身はだいたい次の3つが混ざっています。

気持ち 正体 向き合い方
寂しさ 帰る場所がなくなる感覚 家そのものではなく、記憶のほうを残す
罪悪感 親が守ってきたものを手放す申し訳なさ 親が本当に望んでいたことを言葉にしてみる
後悔の先取り この判断で合っているのか分からない不安 情報が足りないのか、気持ちの問題なのかを分ける

ひとつずつ見ていきます。

寂しさ

これは、家がなくなることそのものへの感情です。

「もう帰る場所がない」という感覚は、実際に売った後にじわりと来ます。だからこそ、売る前にできることがあります。次の章で詳しく書きます。

罪悪感

「親が大事にしていた家を、自分の代で手放してしまう」という気持ちです。

ここでひとつ、考えてみてほしいことがあります。親御さんが本当に望んでいたのは、家が残ることだったでしょうか。それとも、子どもが困らないことだったでしょうか。

答えはご家庭によって違います。ただ、私がお会いしてきた範囲では、後者だったと気づいて楽になる方が多い印象です。これも私個人の実感です。

そしてもうひとつ。実家を持ち続けるかぎり、誰かが管理を続けることになります。固定資産税の支払い、庭の手入れ、建物の修繕、台風や大雨のあとの見回り。遠方に住んでいれば、行くだけで時間と交通費がかかります。

最初は「もう少し持っていてもいいかな」と思っていても、数年経つと、その負担が特定の誰かに偏っていきます。

ですから、売却を考えることは後ろ向きな話ではありません。家族の負担を減らすための、前向きな選択でもあります。「家を守れなかった」と考える必要はありません。これまで家族を守ってくれた家だからこそ、感謝して次の方へ引き継ぐ。そういう受け止め方もあっていいと思います。

後悔の先取り

まだ起きていない後悔を、先に感じてしまう状態です。

ここは切り分けが効きます。迷いの正体が「情報が足りない」なら、調べれば解決します。 相場がわからない、手続きがわからない、いくら残るかわからない。これらは調べれば答えが出ます。

一方、情報はそろっているのに決められないなら、それは気持ちの問題です。気持ちの問題に、情報をいくら足しても解決しません。必要なのは時間です。

この2つを混ぜたままにしておくと、いつまでも苦しくなります。

家を「なくす」のではなく、「形を変えて残す」5つの方法

家の形を変えて残す5つの方法の一覧図。近くを撮る、間取り図を残す、家財は二択にしない、家族で集まる、近所へ挨拶

家は手放しても、記憶は残せます。

気休めに聞こえるかもしれません。ただ、売却を終えた方から後日いただく言葉で多いのが「あれをやっておいてよかった」というものです。逆に「やっておけばよかった」と悔やまれることもあります。

手続きとは何の関係もありませんが、心の区切りという意味では、こちらのほうが大事だと思っています。

順番に紹介します。上から順にやる必要はありません。できるものだけで構いません。

1. 写真は「広く」より「近く」を撮る

外観と各部屋の全体写真は、たいていの方が撮ります。

でも、何年か経ってから見返したときに胸に来るのは、寄りで撮った写真のほうです。

  • 柱に残った背比べの傷
  • すり切れた畳のへり
  • 勝手口の取っ手
  • 台所の窓から見える景色
  • 洗面台の鏡のくもり

こういうものは、住んでいるときには撮ろうと思いません。だからこそ、なくなると二度と手に入りません。

目安として、全体写真は各部屋2〜3枚で十分です。そのぶん、寄りの写真を10枚以上撮ってみてください。家全体で50枚くらいになると思います。スマートフォンで構いません。

撮る時間帯にも、ひとつだけコツがあります。日が差し込む時間に撮ってください。光の入り方は記憶と強く結びついているので、後から見たときの感じ方がまるで違います。

2. 間取り図を1枚残しておく

売却の際、不動産会社が販売用の図面を作ります。この図面を1枚もらっておいてください。 頼めばもらえます。

もしもらえなければ、手書きでかまいません。方眼紙に線を引くだけで十分です。

そして、その図面に部屋の名前ではなく「誰の部屋だったか」を書き込んでおいてください。「和室」ではなく「おばあちゃんの部屋」、「洋室」ではなく「兄の部屋」と。

何十年か経って、家族で昔の話になったとき。「あの部屋、どこにあったっけ」となります。必ずなります。そのとき、この1枚があるだけで話がはずみます。

3. 家財は「全部残す」か「全部捨てる」かの二択にしない

実家の片づけで多いのが、この二択で消耗してしまうパターンです。

全部残そうとすると、置き場所がありません。かといって全部処分すると、後から必ず「あれだけは取っておけばよかった」と思います。

おすすめは、手のひらに乗るものを、ひとり1つか2つだけ選ぶやり方です。

  • 親が毎日使っていた湯呑み
  • 使い込まれた物差し
  • 玄関に置いてあった写真立て
  • 家の鍵

小さいものは、置き場所に困りません。それでいて、手に取ったときに思い出す力は、大きな家具と変わりません。

大きな家具をひとつだけ引き取るのも、もちろんいい方法です。ただし、その場合は置く場所の寸法を先に測ってください。運び込んでから入らないと分かるのが、いちばんつらい展開です。

4. 引き渡しの前に、もう一度家族で集まる

これは、できればやってほしいことです。

「お別れ会」のような名前をつける必要はありません。空っぽになった家で、お茶を飲むだけで十分です。1時間もあれば足ります。

兄弟姉妹がいる場合、この時間があるかないかで、後々の関係が変わることがあります。売却の話し合いは、どうしてもお金と手続きの話が中心になります。気持ちの話をする場が、どこにもないまま終わってしまうのです。

「ここでこんなことがあったね」。そんな話をするだけで十分です。実家を売るという出来事が、「なくなってしまった」ではなく「家族で一区切りつけた」という記憶に変わります。

5. 近所への挨拶を済ませておく

長く住んだ家ほど、近所の方が親御さんのことを覚えています。

挨拶にうかがうと、自分の知らない親の話を聞けることがあります。若いころの話、ご近所での役回り、どんな風に人と付き合っていたか。

家を売ることが、新しく親のことを知るきっかけになる。そういうことが、実際に起こります。

これは、家がなくなってからでは取り戻せません。引き渡し間際は慌ただしいので、少し余裕のあるうちに行っておくことをおすすめします。

ポイント

この5つは、どれも売却の手続きとは関係ありません。やらなくても家は売れます。それでもおすすめするのは、心の区切りがつかないまま引き渡しの日を迎えると、その後も長く引きずる方をたくさん見てきたからです。

急いで決めなくていい場合と、期限を知っておいたほうがいい場合があります

急がなくていいことと、知っておきたい3つ(持ち続ける費用・税の特例の期限・建物の傷み)を示した図

多くの場合、数か月待ったところで状況は大きく変わりません。

気持ちの整理には時間がかかります。焦って売って後悔するほうが、よほど取り返しがつきません。ですので、まずは「急がなくていい」を前提にしてください。

そのうえで、知っておくと選択肢が増えることが3つあります。脅すつもりはまったくないので、そのつもりで読んでください。

空き家のまま持ち続けると、費用がかかります

固定資産税、電気と水道の基本料金、火災保険、庭の手入れ。こうしたものが積み上がります。建物の状態や地域によりますが、年間で数十万円になることもあります。

「待つ」という選択には費用がかかる。それだけ知っておけば十分です。

税金の特例には、期限があるものがあります

相続した家を売るときに使える控除のうち、いくつかは「相続してから一定の期間内に売ること」が条件になっています。金額が大きいので、期限だけは早めに確認しておくと安心です。

ただし、税金の細かい要件は私の領域ではありません。必ず税理士に確認してください。 制度は変わりますし、ご家庭の状況によって使えるかどうかも変わります。

人が住まない家は、傷みが早くなります

換気がされないため、湿気がこもります。半年、1年と空けておくと、それだけで見た目の印象が変わることがあります。

注意

気持ちが固まらないうちに、契約書にサインしないでください。売却を依頼する契約も、売買の契約も、一度結ぶと簡単には戻せません。もし急かしてくる相手がいたら、それは相手の都合です。「もう少し考えます」と言って構いません。

「売る」か「売らない」かの二択で考えなくて大丈夫です

実家をどうするか考えるとき、頭の中が「売る」「売らない」の二択になりがちです。

でも、実際にはもう少し幅があります。

選択肢 向いている場合 気をつけること
しばらく持ち続ける 気持ちの整理がついていない 維持費がかかり、建物は傷む
家族の誰かが住む 住みたい人が実際にいる 他の相続人との話し合いが必要
人に貸す 立地に借り手が見込める 修繕費がかかり、管理の手間も残る
建物を解体して土地にする 建物の傷みが激しい 解体費がかかり、税額が変わることがある
売却する 管理を続けるのが難しい いったん手放すと戻せない

この表を見て「やっぱり売ろう」と決めてもいい。「もう少し持っておこう」と決めてもいい。

大切なのは、選択肢を知ったうえで納得して決めることです。 知らないまま流されて決めたときに、後悔は残ります。

よくいただくご質問

相談の場でよく聞かれることをまとめました。

Q. 売った後に後悔しませんか

後悔する方も、しない方もいます。分かれ目は価格ではなく、納得して決めたかどうかでした。逆に言えば、いま迷っているうちに決めないことが、後悔を防ぐ一番の方法です。

Q. 仏壇や神棚はどうすればいいですか

そのまま処分することはできないと考えてください。閉眼供養(へいがんくよう=魂を抜く儀式)をしてから処分するのが一般的です。菩提寺があればそちらに、なければ仏具店で相談できます。ここでつまずく方が多いので、片づけの計画に最初から入れておくと安心です。

Q. 庭の木はどうなりますか

売却の条件によりますが、伐採して引き渡すことを求められる場合があります。思い入れのある木がある場合は、枝を一本もらって押し花にする、実生(みしょう)を鉢に移す、といった残し方もあります。

Q. 親がまだ元気なうちに、家の話を切り出せません

切り出しにくいのは当然です。「売る話」として持ち出すと角が立ちますが、「もしものときに困らないように、どうしたいか聞かせてほしい」という形なら話しやすくなります。親御さんの希望を聞いておくだけでも、後の罪悪感はずいぶん軽くなります。

Q. 空き家のまま持ち続けてもいいですか

構いません。ただし維持費がかかることと、建物が傷むことは知っておいてください。管理を続ける前提であれば、持ち続けるのも立派な選択肢です。

kento
kento

どのご質問も、実際に何度もいただいたものです。同じことで悩んでいるのは、あなただけではありません。

ひとりで抱えなくて大丈夫です

最後に振り返ります。

  • 実家の売却がつらいのは自然なことで、あなたが薄情だからではありません
  • つらさは「寂しさ」「罪悪感」「後悔の先取り」に分けると扱いやすくなります
  • 写真、間取り図、小さな家財、家族で集まる時間、近所への挨拶。この5つで、家を形を変えて残せます
  • 急がなくて大丈夫です。ただし費用と税の期限だけは知っておいてください

つらいと感じるのは、その家を大事にしてきた証拠です。急いでその気持ちにふたをしなくて構いません。

家を手放しても、思い出まで手放す必要はありません。そして、その家は次の誰かの暮らしの場所になっていきます。そう考えると、実家の売却は失うことだけではないはずです。

とはいえ、ひとりで抱えていると、考えが同じところをぐるぐる回りはじめます。そういうときは、誰かに一度話してみてください。話すだけで整理がつくことは、思っているより多いです。

当サイトでは、実家をどうするかのご相談を無料でお受けしています。「売らないほうがいいのでは」というご相談でも構いません。 選択肢を一緒に整理するのが役目なので、売る前提でお話しいただく必要はありません。

いま決められなくても大丈夫です。決まってからでも遅くありません。

タイトルとURLをコピーしました